カンラン石 (Mg,Fe)$_2$SiO$_4$ は地球の地殻やマントルを構成する主要な鉱物だ(ちなみに地球科学ではカンラン石は鉱物名ではなく固溶体名だと習う)。カンラン石は Mg$_{90}$Fe$_{10}$ 付近の化学組成の時だけオリーブ色になる。この色のカンラン石はオリビン (Olivine) と呼ばれる。なおオリビンの宝石名はペリドット (Peridot) だ (ああメンドクサイ)。
過去において宝石の色というか鉱物の色の解明に乗り出した鉱物学者は大抵が討ち死にしている。それくらいに鉱物の色の原因は多種多様なのだ。さらに鉱物 (というか物質全般) は反射した時の色と透過した時の色が違う。例えば金箔 (が鉱物かどうかはサテオキ) は反射光は金色だが透過光は青色だ。だから今回説明を試みる「オリビンの色」も先ずはどっちなのか決める必要がある。ズバリそれは透過した時の色だ。光を透過した時の色は何色かというのをカガク的に表現する場合は吸収スペクトルってのを使う。
吸収スペクトルの形は光の波長によって鉱物に吸収されたりされなかったりで決まる。ある波長の光が鉱物に吸収されるか否かは鉱物内部の原子配列(結晶構造)によって決まる。もう少し詳しく言うと鉱物の結晶構造によって決まる,鉱物を構成する原子の電子が持つ位置エネルギーの大小に依る。この電子の位置エネルギーの大小を計算によって求める方法のひとつが DV-X$\alpha$ 法というわけ。
$\bullet$ オリビンの吸収スペクトル
Olivine Group Visible Spectra (generally 350 - 2000 nm) にオリビンの吸収スペクトルのデータがあったので取ってきた。まずは緑の試料 (Forsterite 418) だ。
この試料の吸収スペクトルは次の図。
図の中の $\alpha$, $\beta$, $\gamma$ はオリビンの光学軸を表している (10 Ångstrom axis = $\alpha$; 6 Ångstrom axis = $\beta$; 4.7 Ångstrom axis = $\gamma$ 。ちなみに AMCSD で Forsterite を検索すると結晶構造は空間群 $Pbnm$ で格子定数は $a=4.762$ Å, $b=10.244$ Å, $c=5.989$ Å 。さらに結晶学では $\alpha$, $\beta$, $\gamma$ は角度を表す記号だから注意)。オリビンは試料の向きによって吸収スペクトルの形が違う,つまり色が違うのだ。こういう性質を鉱物の多色性と呼ぶ。次は茶の試料 (Fayalite 1582) だ。
この試料の吸収スペクトルは次の図。
コレらの色の違いを DV-X$\alpha$ を使って説明するのが今回の目的。つまり DV-X$\alpha$ は宝石の色を説明できるか検討するワケだ。